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【寄稿記事】地方自治体によるメタバース活用の可能性と現在地

関連技術の進歩やオンラインコミュニケーションの定着などを背景とし、今後急速に人々の生活や仕事に普及していくと考えられるメタバース。ゲームやエンタメ業界のみならず、小売や製造など幅広い業界の大手企業が活用を進めています。企業の活用が注目を集める一方で、多くの地方自治体もメタバースの可能性に注目し、実際に活用に乗り出しています。今回は、そんな地方自治体によるメタバース活用の可能性と現在地を解説します。

目次

地方自治体のメタバース活用がもたらす4つの可能性

メタバース上での観光地の再現による魅力の発信

地方の魅力を広く発信するために、メタバース上で観光名所を再現する取り組みが各地で行われています。これにより、いつでもどこからでも手軽に観光を楽しんでもらうことができます。さらに、このメタバース上の観光体験が、現地への訪問を促すきっかけとなる取り組みも多くの地方自治体で行われています。
実際に、凸版印刷とMONETが行ったメタバース体験の実証実験では、予定になかった観光地のメタバース空間を訪れた多くの人々が、その場所に興味を持ち、実際に足を運ぶことになったという成果が得られています。コロナ禍で観光地が大きな打撃を受ける中、メタバースをマーケティングチャネルとして活用することは、需要再燃のきっかけとして大きな注目を浴びるでしょう。

メタバース上での特産品やNFTの販売

メタバースの活用により、従来のECでは販売が難しかった特産品を地元の人々がアバターの姿で魅力的に紹介し、販売することができます。通常のECサイトでは画像や文章だけでは伝えきれない背景やストーリー、製作時の工夫を対話を通じて伝えることで、まるで実際にその地を訪れて観光しながら買い物をしているかのような体験を提供することが可能です。

さらに、地方自治体には収益の一部が還元されるNFTを販売することで、地方自治体にとって新たな収益源を生み出すだけでなく、他地域に住む多様な人材とのつながりを築くことができます。

仕事や医療などのリモート化による定住人口の拡大

メタバースの活用により、より広範な業務をリモートで遂行したり、医師の診察や治療を遠隔で受けることが可能になります。その結果、若者が都市部に求める特定の仕事のために上京する必要がなくなったり、高齢者が都市部で必要な治療を受けるために移住する必要がなくなったりすることで、人口流出を防ぐことが期待されています。

さらに、地方の居住地からでも都市部と同等の働き方ができるようになると、豊かな自然環境や低い生活費などを求める人々が都市部から移住することが増え、地方の定住人口が拡大する可能性があります。

文化的資産の継承

メタバースを利用して、文化的な価値を持つ建造物や歴史的な品々を再現することで、文化的な資産を半永久的に保護・伝承することが可能です。博物館などでの保管に比べて、メタバース上に再現することで、いつでもどこからでも多くの人々がアクセスできるため、その意義は一層大きいと言えます。

注目の地方自治体のメタバース活用事例3選

静岡県焼津市がメタバース上でふるさと納税をPR

焼津市は、メタバース上のイベント「バーチャルマーケット2022 Winter」に特設ブースを出展し、焼津市の魅力やふるさと納税品のPRを行いました。訪れたユーザーは、迫力ある「バーチャルマグロ解体ショー」や船上からの「バーチャルマグロ一本釣り」など、メタバースならではの臨場感ある体験を楽しむことができました。さらに、焼津市の自慢の地場産品である「ネギトロ」や「カツオのたたき」、「生しらす」などが3Dモデルで展示され、ブース内から直接ふるさと納税寄付サイトにアクセスし、現地で寄付を行うことも可能でした。

・参考:静岡県「焼津市がメタバースでふるさと納税のPRを開始!!」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000106421.html

鳥取県が地域還元型のメタバースゲームをリリース

手塚プロダクションと旅行事業を展開するJTBが共同で設立したJ&J事業創造らは、世界的なマンガ・アニメコンテンツで知られる手塚プロダクションと旅行業界のリーディングカンパニーであるJTBが手を組み、日本各地に関連したNFTを使用したメタバースゲームを開発しました。

このプロジェクトは、新型コロナウイルスの影響で大きな打撃を受けた地域経済や国内観光市場の回復と支援を目的としています。ユーザーは、日本各地の魅力や文化が詰まったNFTを資産として所有し、それを活用してゲームを楽しんだり、カードを合成して新たなカードを生成したり、カードの売買で収益を得ることができます。最初の展開として、鳥取県との連携が決定し、鳥取県は宇宙産業の発展を促進する取り組みに力を入れています。

このNFTの販売によって得られた収益の一部は、各地域の産業支援のために寄付されるという新たな復興支援の形を目指しています。

実際にNFTは発売初日で、世界90カ国から購入者が殺到。約2700万円分が完売する盛況ぶりとなり、鳥取県には売上の約5%にあたる、約138万円が還元されました。

またそれ以上に、一連の取り組みをメディアに取り上げて頂いたり、NFT保有者の方に観光地の魅力を発信して頂いたりと、鳥取県の認知向上・魅力発信に繋がっていることが大きな成果となっているとのことです。

・参考:鳥取県「人気キャラクター「鉄腕アトム」を活用したご当地NFTトレーディングカードゲームの第一弾として鳥取県が選ばれました」
http://db.pref.tottori.jp/pressrelease.nsf/webview/CBA5D38B16591C09492587E4002BE457?OpenDocument

佐賀県嬉野市が同市の観光地を再現した独自のメタバース空間を開設

佐賀県嬉野市は、西九州新幹線の開業に合わせて独自のメタバース空間「デジタルモール嬉野」を立ち上げました。

デジタルモール嬉野は、嬉野温泉駅と周辺の街並みや観光地を高品質なグラフィックで再現したメタバース空間であり、同時に200人以上のユーザーがアクセスできます。ユーザーはこのメタバース上でアバターを操作し、自由に散策したり、嬉野市に関するクイズやスタンプラリー、名産品のショッピングなどを楽しむことができます。

さらに、メタバース内にはコインを獲得できるポイントがあり、これらのコインを集めることでリアル店舗で使用できる特典が得られるカプセルトイガチャを回すこともできます。このように、メタバースならではのゲーミフィケーション要素を取り入れることで、遠隔地に住む人々に対して嬉野市の魅力を宣伝しています。

・参考:佐賀県嬉野市「メタバース空間「デジタルモール嬉野」について」
https://www.city.ureshino.lg.jp/shisei/keikaku/_28638/_28673.html

最後に

ご紹介の通り、メタバース活用は多くの地方自治体にとって長きにわたり悩まされてきた、経済活動の停滞や過疎化に対する有効な打ち手となるのではないかとの期待が高まっています。もちろん、先進的な取り組みということもあり、全ての取り組みが今すぐに大きな成果を上げることは難しいでしょう。

しかし、実証的な取り組みも含め価値に繋がる活用方法・体験設計を模索しながら、ノウハウやケイパビリティを蓄積することが、将来的な自治体の課題解決や住民のより豊かな暮らし創りに繋がることでしょう。

私たちも、勇気を持って新たな取り組みを進める自治体の皆様をご支援することで、微力ながら貢献できればと考えています。

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