現在、デジタル庁の発足や押印の廃止など「行政手続のデジタル化」に注目が集まっています。もっとも、国は2019年の段階ですでに行政手続をデジタル化するために、「デジタル手続法」を制定しています。また、デジタル手続法の制定と同時に、「マイナンバー法」も改正されています。この記事では、デジタル手続法の概要、3つの原則、そしてマイナンバーとの関係性について解説していきます。
こんな方におすすめ
- 行政手続きのデジタル化に関する法律を知りたい方
- デジタル手続法について知りたい方
この記事でわかること
- デジタル手続法の内容
- デジタル手続法とマイナンバーの関係
デジタル手続法の概要
デジタル手続法の目的は、このようになっています。
①手続等に係る関係者の利便性の向上
②行政運営の簡素化及び効率化
③社会経済活動の更なる円滑化を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与すること
ここでは、まずデジタル手続法の概要について紹介していきます。
行政手続のオンライン原則
デジタル手続法には、行政手続のオンライン原則について規定されています。行政手続のオンライン原則には、国民・民間事業者から行政機関への「申請のオンライン化」と行政機関から国民・民間事業者への「通知等のオンライン化」が存在します。
デジタル手続法の規定(6条・7条)によって、法令で申請及び通知を書面で行うことが規定されている場合であっても、オンラインで行うことが可能となります。
行政手続をオンライン化する規定には以下のような例外が存在します(10条)
①申請等に係る事項に虚偽がないかどうかを対面により確認する必要がある場合
②許可証その他の処分通知等に係る書面等を事業所に備え付ける必要がある場合
③その他の事由により当該手続等をデジタル技術を利用する方法により行うことが適当でないものとして政令で定める場合
添付書類の省略
行政手続を行う際に、行政は本人確認などの目的から申請書とともに住民票や印鑑証明書、登記事項証明書などの添付書類を求めることがよくあります。しかし、デジタル手続法の規定(11条)によって、一部の添付書類を提出することが不要となります。

マイナンバー、マイナンバーカード、マイナンバーカードに内蔵されている電子証明書(公的個人認証)などが用いて本人確認を行う場合に、添付書類の提出が不要になります。
公的個人認証とは、オンライン上で本人確認を行う手段です。公的個人認証による本人確認を行う場合には、マイナンバーカードに内蔵されている電子証明書を利用します。
デジタル手続法の3つの原則
デジタル手続法2条には、「デジタルファースト」、「ワンスオンリー」、「コネクテッドワンストップ」という3つの原則が掲げられています。以下では、これらの原則について解説していきます。

デジタルファースト
デジタルファーストとは、「個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する」ことを意味しています。デジタルファースト原則は、デジタル手続法の趣旨に最も直接的に対応する原則であり、 デジタル技術の活用を原則とするという点において、 ほか2つの原則の基盤ともなるものです。
この原則は、行政手続それ自体をデジタル化するだけではなく、それに付随する行政事務や民間事業者の事務の処理など、一連の工程をデジタル技術を用いてオンラインで完結させるというものです。
デジタル化することによって、手続きに必要な時間、場所などの制約を排除し、行政手続に係る事務や業務の自動化、共通化が図られ、手続きを迅速かつ的確に行うことができます。
ワンスオンリー
ワンスオンリーとは、「一度提出した情報は、二度提出することを不要とする」ことを意味しています。この原則は、国民や民間事業者が提供した情報(氏名や登記情報など)については、行政機関同士が連携し確認することによって、国民や民間事業者の負担を軽減するというものです。
ワンスオンリー原則に則ることによって、一度提供した情報と同じ内容の情報を提供することが不要となります。
コネクテッド・ワンストップ
コネクテッド・ワンストップとは、「民間サービスを含め、複数の手続き・サービスをワンストップで実現する」ことを意味します。この原則は、引っ越しや相続の手続きなど、一度に多くの手続きが発生する場合に、それらの手続きを一度に行えるようにするというものです。
コネクテッドワンストップ原則に則ることで、国民は多くの役所や銀行に行く必要がなくなり、また必要な手続きを漏らすことなく行うことができるようになります。
デジタル手続法とマイナンバーの関係性
マイナンバー法はデジタル手続法と同時に改正が行われました。マイナンバー制度はオンライン上で行政手続を行う際の本人確認手段として重要な存在となります。
ここではまず、デジタル手続法の成立に伴って改正されたマイナンバー法の改正点について解説していきます。そして、次に本人確認手段としてのマイナンバー・マイナンバーカード・公的個人認証の利用について説明していきます。

マイナンバー法の改正点
マイナンバー(個人番号)の利用は、マイナンバー法に規定される「利用事務」に限定されています。今回の改正では、以下の利用事務が追加されました。
①罹災証明書の交付に関する事務
②母子健康包括支援センターの事業の実施に関する事務
③新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく予防接種の実施に関する事務
このように、マイナンバーの利用範囲は少しずつ拡大しており、デジタル庁の設置に併せて様々な行政手続にマイナンバーが用いられることも考えられます。
本人確認手段としてのマイナンバーの利用
デジタル手続法の規定により、オンラインで行政手続き(申請・通知)を行うことができるようになり、特定の添付書類を省略することが可能になりました。添付書類の省略の際に、マイナンバーカードや公的個人認証は本人確認手段として用いられています。
現時点でマイナンバーカードや公的個人認証は、添付書類を省略するというデジタル手続法の規定を実現するため、以下のように用いられています。
住民票の写しの添付省略に係る措置
①申請者側から公的個人認証サービスにおける署名用電子証明書の送信を受けること
②住基ネットを使用して、本人確認情報の提供を受けること
③市町村に対する公用請求により、本人確認情報の提供を受けること
④申請者側から直接マイナンバーカードの券面提示を受けること
印鑑証明書(個人)の添付省略に係る措置
申請者側から公的個人認証サービスにおける署名用電子証明書の送信を受けること
マイナンバーの利用事務の拡大及び添付書類の提出に代わる本人確認手段として、マイナンバーカード、公的個人認証が用いられています。
そして、行政手続におけるマイナンバーの利用機会はこれからますます増加することが予想されます。デジタル手続法とマイナンバーの関係性も見えてきたのではないでしょうか