自治体など公的部門を相手にする企業担当者であれば、基本的な入札に関する知識を身に着けておかねばなりません。しかし自治体のルールは民間企業と異なるため、はじめて触れる方は戸惑うことも多いのではないでしょうか。そこで今回は、それぞれの入札方式について、民間企業の視点で解説していきます。
入札とは
「入札」とは、競争売買の方法のひとつであり、官公庁が複数の事業者同士を競わせ、その中から最適な事業者を選定する方法を指します。
また、入札方式は現行の会計法(昭和 22 年 3 月 31 日法律第 35 号)によって定められており、「一般競争契約」、「指名競争契約」、「随意契約」の3つに大別することができます。
次に、「一般競争契約」、「指名競争契約」、「随意契約」それぞれの詳しい内容について見ていきましょう。
一般競争入札
一般競争入札は、契約に関する公告を出し、資格を持った不特定多数の事業者を競争に参加させ、その中から最も有利な条件を提供してくれる事業者と契約を締結する方式です。
現行の会計法における第29条の3 第 1 項では、官公庁は一般競争入札による契約を原則とすることが定められています。
会計法 第29条の3
契約担当官及び支出負担行為担当官(以下「契約担当官等」という。)は、売買、貸借、請負その他の契約を締結する場合においては、第三項及び第四項に規定する場合を除き、公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならない。
一般競争入札は多くの事業者が参加でき、契約までの公平性もありますが、利益の確保が難しいなど、注意が必要なこともあります。
事業者のメリット
・広く競争に参加する機会を許すことから機会均等性が高い
・事業者の選定に関する公平性が高い
・価格勝負となるため、中小零細企業にも落札のチャンスがある
事業者のデメリット
・過度な競争により利益の確保が難しい場合もある
指名競争入札
指名競争入札とは、官公庁がいくつかの企業を指名し、その中から最も良い条件を提示した事業者と契約が行われる契約方式です。
指名競争入札は一般競争入札と随意契約の長所を採りつつ、それぞれの短所を補完する中間的な契約方式といえます。
法的根拠
・会計法第29条の3第3項
・地方自治法第234条第2項
・地方自治法施行令第167条
会計法では、指名競争入札は入札の例外的な方式と位置づけられています。
会計法第29条の3 第3項
契約の性質又は目的により競争に加わるべき者が少数で第一項の競争に付する必要がない場合及び同項の競争に付することが不利と認められる場合においては、政令の定めるところにより、指名競争に付するものとする。
事業者のメリット
・競争相手が少なく、落札される可能性が高まる
事業者のデメリット
・参加するには指名されなければならない
随意契約
随意契約とは、官公庁が事業者を選定する際、競争を行わせず任意の事業者を選んで締結する契約方式のことをいいます。
法的根拠
・第29条の3第4項
・地方自治法第234条第2項
・地方自治法施行令第167条の2第1項
会計法では、随意契約による契約は一定の要件が必要であることが記されています。
会計法第29条の3 第4項
契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合及び競争に付することが不利と認められる場合においては、政令の定めるところにより、随意契約によるものとする。
また、自治体の随意契約は、地方自治法施行令第167条第2項によって「予定価格が一定金額以内のもの」に限り随意契約が可能な旨記されており、これに基づいて各自治体が契約規則やガイドラインを作成し、運用しています。
例えば、生駒市では、随意契約ができる金額を次のように設定しています。
契約の種類 | 予定価格 |
工事又は製造の請負 | 130万円を超えないもの |
財産の買入れ | 80万円 |
物件の借入れ | 40万円 |
財産の売払い | 30万円 |
物件の貸付け | 30万円 |
上記以外のもの | 50万円 |
事業者のメリット
・入札準備などの手間が必要なく、すぐに受注可能
・一度契約すると長期的な付き合いが見込める
・自治体営業など、日常的にアプローチが可能
事業者のデメリット
・公募ではないため、競合に勝つことが難しいこともある
プロポーザル
随意契約の中には競争性のある入札方式も存在します。
企画競争入札はその代表的な例であり、一般的には「プロポーザル」と呼ばれています。
プロポーザル方式は、業務内容に高度な技術や専門性が要求されるものについて、事業者がそれぞれ技術提案書(プロポーザル)を提出し、技術的に最適な事業者を特定する方法です。
プロポーザルは単純な価格競争では品質の確保が難しいデザインや設計、研修、プロモーションなどの事業で幅広く利用されます。
プロポーザルはコンペと混同されることがありますが、プロポーザルは提案者、コンペは提案そのものを決定する点で違いがあります。
事業者のメリット
・選定されれば優先的に交渉する権利が得られる
事業者のデメリット
・書類の作成やプレゼンの準備に時間がかかる
プロポーザルの流れと具体例
プロポーザルは各官公庁によって細かな進め方が異なりますが、大まかに次のような流れで進められていきます。
次に、ソフトウェアやシステム導入の場面でどのようにプロポーザルが活用されているのか、事例を見ていきましょう。
【プロポーザルの具体例①】システムの公募型プロポーザル
大洲市では、市が保有する保育施設における給食管理ソフトウェア導入業務に関して、公募型プロポーザルを実施しています。
本プロポーザルは次のような日程で行われました。
公募型プロポーザル実施公告 | 令和3年8月31日(火曜日) |
実施要領等による質疑受付 | 令和3年9月1日(水曜日)から令和3年9月6日(月曜日)まで |
実施要領等に関する質疑回答 | 令和3年9月9日(木曜日) |
参加申込書の提出期限 | 令和3年9月14日(火曜日) |
参加申込者の確認結果の通知 | 令和3年9月16日(木曜日) |
企画提案書等の受付期間 | 令和3年9月17日(金曜日)から令和3年9月27日(月曜日) |
プレゼンテーション・ヒアリング | 令和3年10月15日(金曜日)予定 |
審査結果の通知・公表 | 令和3年10月下旬予定 |
業務委託契約の締結 | 令和3年11月上旬予定 |
同市の実施要領では、参加資格を「保育施設における給食管理業務や国の給食関連法に精通し、豊かな知識や技術があり、大洲市に的確なアドバイスができる体制が整っていること」としています。
このように、保育施設の給食管理に関する専門性や経験が重視されていることがわかります。
プロポーザル実施後、参加者の名称や点数、審査講評が公表され、契約が成立しています。
※なお、プロポーザルは必ずしも複数の事業者が参加するわけではありません。公募の結果1つの事業者しか応募がなかったり、1つも応募がない場合もあります。
【プロポーザルの具体例②】ソフトウェアの公募型プロポーザル
京都市教育委員会では、採点作業の効率化のため、市内の全中学校、義務教育学校に採点・集計ソフトウェアを導入することとし、公募型プロポーザルを実施しました。
本プロポーザルはソフトウェアということもあり、公募時に仕様書が公開されています。機能要件では動作環境や基本機能、セキュリティ、ヘルプデスクの設置などに関する細かな内容が指定されています。
また、要領には提案内容採点表が公開されており、審査の透明性が保たれています。
本プロポーザルでは4社がプロポーザルに参加し、最も点数の高かった1社が選定されています。
プロポーザルで成果を得るためには日程や要領をよく確認する
上記の通り、プロポーザルを理解するためには日程、官公庁のニーズ、評価基準などを理解することが重要です。また、自治体によってはプロポーザルに関する一般的な要領を公表しているところもあります。
自治体のニーズや公募の背景をよく理解し、より高い評価を得られるプレゼンに向けて準備しましょう。


