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《なくすべき線引き、引くべき一線》実務で役立つ「デジタルの境界」の話

本記事は、自治体通信Onlineにて連載を開始した当社執行役員 加藤俊介の寄稿記事です。

前回はデジタル化において必要な「起点」の発想をお伝えしました(参照:《ありがちな自治体DX “3つの落とし穴”》デジタル化のために必要な「起点」の発想)。今回は、デジタル化を進めるうえで意識すべき「境界」について、大切な“ふたつのこと”をお届けします。

  • デジタルの世界に「境界」はない
  • デジタルディバイド対策で曖昧にされがちな「境界」
目次

デジタルの世界に「境界」はない

ひとつ目は、デジタルの世界ではリアルの世界にあるような都道府県や市町村という「境界」はないということです。

言われてみれば当たり前で、ネット上には市域のように「ここからここまでがA市です。これより先がB市です」という区切りはないわけです。デジタルサービスも従来のシステムを「所有する」形態から、SaaS(Software as a Service)のようなサービスを「利用する」形態に移行する中で「境界」がなくなってきています。

住民は居住自治体のみで生活をするわけではありません。本来、行政区分の境界がないデジタルサービスを、各自治体が個別に調達することは「境界」を生み出すことになり、効率も利用者体験も悪いものになってしまいます。

デジタル社会は行政区分のないボーダーレスな世界…

急速に導入が広がる自治体向け電子申請サービスも、理想は共通のサービスを自治体の行政区分を超えて、共同で調達し、利用することだと考えます。多くの自治体では、同様の行政手続きを扱っており、申請フォームも共有しやすいというメリットがあります。

共同調達はハードルが高いということもあるかもしれませんが、実際にLoGoフォーム電子申請等のサービスでは、異なる自治体間であっても作成したフォームをお互いに共有し合うことがされています。ゼロから各自治体で申請フォームを作成するのではなく、共有された申請フォームを取り込み、変更が必要な個所だけを修正して活用することができるようになっています。

類似する事例に、電子図書館サービスがあります。物理的な図書館に行かなくても電子書籍を借り、スマホ等で閲覧・返却することができるサービスで、コロナ禍で導入する自治体が増加しています。

しかし、“ひとつの自治体にひとつの電子図書館”という流れがあることが懸念されます。各自治体ごとに調達がされると約1,700の小さな電子図書館が全国で誕生してしまいます。デジタルには「境界」はありません。物理的な図書館に縛られる必要はなく、広域(本来は隣接しているかどうかに関わらず)で電子図書館を導入すれば済むはずです。電子図書館を広域で設置することは、住民がアクセスできる書籍数が増加する点でも、メリットが大きいと考えます。

書籍ライセンスの課題などがあると聞きますが、実際に長野県と県内全77市町村の協働で設置された「デジとしょ信州」のように広域での電子図書館設置の例もあり、不可能ではありません。

デジタルディバイド対策で曖昧にされがちな「境界」

ふたつ目はデジタルが得意な方とデジタルが不得手の方の「境界」はしっかりと分けて考えるということです。デジタルが苦手な方にはしっかりとサポートをする。必要であればアナログの対応も残す。でも、デジタルサービスを提供するかどうかの意思決定には影響させないことが大切です。

異なるものを混ぜて議論をすると、すべてが不得手の方向けの設計になりデジタルサービスの導入ができなかったり、全体が使いにくいものになったりする恐れがあります。

マゼルナ、キケン

これは「マイナンバーカードやスマホを持っていない人、使えない人はどうするのか?」という批判にも関係します。

答えは、マイナンバーカードを持っていない人(持たない選択をする人)にはこれまでどおりのサービスを提供する。サービス水準は下げない。一方で、マイナンバーカードを持っている人は役所に行かなくても済む電子申請の利用など、より便利さを享受できるようにすることです。

マイナンバーカードを持っている人と持っていない人は分けて考える。ここの境界を分けずにマイナンバーカードを持っていない人も持っている人も同様に使えるサービスを作ると、全体のセキュリティレベルが下がったり、不便さが増したりして、結局マイナンバーカードを持つ意味がなくなります。
(例えば、カードを持っていない人に配慮して認証強度の異なるID/パスワードとマイナンバーカード認証でのログインを並列に置くのはナンセンスです)

デジタルディバイド対策を検討する際に、この「境界」は曖昧になりがちですが、異なるものは分けて対策を考えるということが重要で、実はこれが公平でもあります。

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